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グローバルコミュニケーションとの出会い

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時間は少し遡ります.これからお話しするのは,「はじめて目の当たりにしたグローバルコミュニケーション」,「グローバルカンファレンスで見た日本人の沈黙」より,さらに前の出来事です.

「グローバル」「コミュニケーション」という,魅力的な言葉

新卒で入った1社目,日系の大手通信会社に勤めていた頃,会社主催の研修でグローバルコミュニケーションを学ぶ機会がありました.必須研修ではなく,希望者のみが受講する研修スタイルです.2日間のプログラムで,全国から30人ほどが集まっていました.

実を言うと,私はこの研修が何を学ぶ場なのか,正確に理解しないまま参加していました.研修広告の「グローバル」「コミュニケーション」という言葉の響きに惹かれて手を挙げた,というのが実際のところです.おそらく,他の受講生の多くも同じだったのではないかと思います.事前に「Read the air (空気を読む)とはどういうことか,考えてきてください」という宿題が出されていたのですが,正直,その意図もあまりピンときていませんでした.

オニオンモデルと一つの疑問

研修が始まってみると,これは「英語ができる・できない」を扱う内容ではなく,いわゆるコミュニケーション学の講義と演習(個人ワークおよびグループディスカッション)でした.講師は外国人で研修は基本的には英語で進みます.まず紹介されたのは,オニオンモデル1——人と人、文化と文化の違いを,玉ねぎの断面図のように,外側の見えやすい層(言葉遣いや振る舞いといった表層)と,内側の見えにくい層(価値観や信念)に分けて捉える考え方です.そこから講義は,ホフステッドとホールの理論2,つまり High Context 対 Low Context という概念,6 Dimensions という概念のへと発展していきました.

ここで,まず私は率直に消化不良を起こしました.日本語は High Context な文化(高文脈な文化,複雑性が高い)に分類される,と説明を受けたのですが,私の感覚では,日本語は主語や述語といった文節をしばしば省略する言語で,発話される語数だけで見れば,日本語の方がむしろ少ない.だとすれば,日本語の方が Low Context なのではないか——そんな疑問が湧いてきました.

あとになって復習してわかったのは,High/Low を分けるのは語数の多さではなく,行間にどれだけ共有された背景(暗黙知)を込めているか,ということでした.日本語は暗黙知を多く含むからこそ High Context になる.そう理解したとき,講師がなぜ「Read the air (空気を読む)とはどういうことか考えてきてください」という宿題を出していたのか,ようやく腑に落ちました.

ここでの学びは,コミュニケーションとは,単に語彙が多い,文法が正しい,発音が良いといった語学力の話ではなく,「科学」であるということでした.つまり,コミュニケーションは,文化的背景からくるステレオタイプの要素と,個人の資質に依存する要素に分かれ,少なくとも前者は科学的に捉えれば体系化でき,私たちの異文化コミュニケーションを助ける武器になりえるということです.私はすっかり,ホフステッドとホールの理論に魅了されていました.

反応の薄い教室

ただ,これだけ示唆に富んだ内容であっても,多くの受講生にとっては初めて触れる考え方です.腹落ちするまでに時間がかかっている様子でした.講師は何度も理解度を確認しながら進行していましたが,教室全体の反応はどこか薄いままでした.

英語でのディスカッションに慣れている様子の受講生が,2〜3名ほどいましたので,研修は,実質的にこの数名が原動力となって進んでいきました.それ以外のメンバーからの反応が薄いため,ロールプレイもうまく成立せず,1日目は試行錯誤を重ねたまま,研修としてはカオスな状態で終わりました.

2日目は,打開策として,積極的に話せるグループと,英語でのディスカッションに慣れていないグループに分かれることになりました.しかし,1日目のうちに多くの受講生が自信を失っていたため,大多数が後者を選択.均等な人数割ができず,グループ分けはうまく機能しないまま,結局,2日目も1日目と同じように,研修としては消化不良で終わりました.

良いコンテンツが,なぜ機能しなかったのか

オニオンモデルや High/Low Context の理論は,今振り返っても,とても意義深い内容でした.コンテンツは,間違いなく良かった.けれど,それが多くの受講生には届きませんでした.

この経験から,私は3つのことを学びました.

一つは,言いたいことがなければ発言できないということ.この研修においてのコンテンツは日本語で行っても高度な内容であり,腹落ちしないメンバーには何を聞いていいのかすらわからない混乱状態であったと推察されます.自分が発言したいことが浮かんではじめてコミュニケーション(ディスカッション)が成立する.そのため,グローバルコミュニケーションのように人ひとりの理解度やステージに差が出てしまうような研修は,集合で学ぶものではないということです.コミュニケーションのメカニズムは,一人ひとりの経験や課題感,スタイルによって大きく異なるからこそ集団に対して画一的に届けるのではなく,個にフォーカスして丁寧に実施することが必要です.

もう一つは,コミュニケーションが「科学」であるからこそ,学びの導入段階で,これまでの思い込みを一度しっかりと解きほぐし,新しい考え方を受け入れられる土壌を作ることが欠かせないということです.

そして最後に,頭で理解したことは,実際にアウトプットし,振り返り(デブリーフ)を重ねなければ,使える力にはならないということです.数日で学び取れるものではなく,ある程度の時間をかけて,繰り返し習得していく必要があります.

当道場が大切にしていること

グローバルコミュニケーション道場では,多数を想定した集団研修は実施しておりません.あくまでも個のステージや課題にフォーカスをあて,受講生一人ひとりが確実に成長されることをコミットした育成手法です.そのため,各顧客企業様にてノミネートいただいた幹部候補生などの本当にグローバルコミュニケーションを必要とされている個に丁寧に向き合います。それは,個人のステージを尊重したステージ別設計,そして密度の高い逆ピラミッド環境という当道場のプログラム設計思想に,そのまま反映されています.

グローバルコミュニケーション道場
代表 深見忠義

  1. オニオンモデル:社会心理学者ホフステッドが提唱した,文化を玉ねぎの断面図に見立てたモデル.外側から「シンボル(言葉・服装など)」「ヒーロー(尊敬される人物像)」「儀礼(習慣・作法)」「価値観(善悪や美醜の判断基準)」という層で構成され,外側の層ほど目に見えやすく,内側の層ほど無意識に根づいていて見えにくいとされます. ↩︎
  2. ホフステッドとホールの理論:ホフステッド(G. Hofstede(オランダ) 社会心理学者)は,各国の文化を「権力格差」「個人主義/集団主義」など複数の指標(6 Dimensions)で数値化し,比較できるようにした研究で知られます.ホール(E. T. Hall(アメリカ)文化人類学者,異文化コミュニケーション学の先駆者)は,コミュニケーションにおいて言葉以外の文脈(背景知識や状況)にどれだけ意味を委ねるかという観点から,文化をHigh Context(文脈依存度が高い)とLow Context(文脈依存度が低い)に分類したことで知られます. ↩︎

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