グローバルコミュニケーション道場の源流
グローバル製薬企業に勤めていた際,部下に対してグローバルコミュニケーションのトレーニングを行う必要性を感じ,同トレーニングを企画しました.私たちが欲しいグローバルコミュニケーションのプログラムを探しても見つからず,トレーニングを外注することは諦め,人事部のHRパートナーと相談し,自分たちでプログラムを作ることにしました.たまたまそのHRパートナーは外国人で,異文化コミュニケーションについて専門的に学ばれたバックグラウンドを持っていたので,彼と二人三脚で作成しました.グローバルコミュニケーションを学ぶ要素として,「異文化理解(Cultural Understanding)」「論理的意思疎通(Logical Communication)」「表現技法(Rhetorical techniques)」の3要素に分解し,座学2日とOJT半年というプログラム設計を行いました.ここでは各要素の詳細は割愛いたしますが,これがグローバルコミュニケーション道場の源流となりました.
「サーキュラー型」対「リニア型」
3要素のうち「論理的意思疎通(Logical Communication)」で,なぜグローバルコミュニケーションでは論理的な会話術が必要になるのかを説明しました.日本語と西洋言語(主に英語)では,構成パターンに違いがあります.日本語はサーキュラー型コミュニケーション(あるいはスパイラル型)と言われ,いわゆる渦巻の構成パターンで,修辞や説明が続いた後で最後に結論が来る構成です.一方,英語はリニア型コミュニケーションと言われ,直線的に構成されます.英語で結論が先に来るパターンが多いのはこのためです.これは,1966年に,応用言語学者Robert Kaplanが発表した論文「Cultural Thought Patterns in Intercultural Education」に基づいています.
「ゴルフ」対「ラグビー」
しかし学術的な表現ではなかなか腹落ちしませんので,私たちはスポーツに例えることにしました.
日本語はゴルフである.
ゴルフは,プレーヤー全員が,同じゴール(カップ)を目指します.進む方向も,概ね同じです.誰かがショットを打つ番になれば,他のプレーヤーは静かに見守ります.ボールが放たれると,全員が同じ目線でその行方を追います.何が起こるか,だいたい予測がつきます.
ゴルフは,何打でカップに届くかを競う競技であり,飛距離だけを競うわけではありません.場合によっては,あえて抑制的に,有利なフェアウェーをキープするポイントを選択します.あえて刻んだり,レイアップしたりしながら,しかし着実にカップに近づいていく.
この流れは,日本語のおしゃべりに似ています.いきなり本題や結論をぶつけるのではなく,背景や文脈を積み上げながら,徐々に核心に近づいていく.遠回りに見えて,実は戦略的な位置取りをしています.
一方,英語はラグビーである.
話したい人が,ボールを奪って発言権を得ます.それぞれのゴールは,必ずしも同じではありません.また,ファンブルやノックオンのような,予測できないボールの動きもありえます.しかし,予測できないからこそ面白く,そこからイノベーションが生まれる可能性が高まります.
このボールの運び方は,ディベートの構造に近いと思います.主張を積み重ねて前へ前へと進め,相手の主張が勢いを持てば,反論やカウンターでその勢いを止める(タックル).自分の主張が尽きても,議論そのものを止めることなく,根拠やデータを差し込んで前に進め続ける(オフロードパス).
収束を目指す言葉,発散を目指す言葉
ここに,二つの言語コミュニケーションの,目的の違いが見えてきます.
日本語は,同意や合意という調和,つまり収束を重んじます.一方,英語は,違いをぶつけ合うことで,新しい発想やイノベーションの誘発を期待します.いわば,発散を目指す言葉です.
どちらが優れている,という話ではありません.ゴールの定義が違い,その道のりが違うだけです.
郷に入っては郷に従え
プレースタイルが違い,ルールが違う競技を一緒に行うことはできません.ゴルフクラブを持ってラグビーフィールドに入場すると反則になります.
重要なのは,今自分がゴルフ場にいるのか,ラグビー場にいるのかを認識することです.私たち日本人の軸足はゴルフ場にありますので,急にラグビー場に入ったからと言って,トップ選手並みのプレーができるわけではありません.最初はアマチュアで見よう見まねしかできません.しかし,繰り返しトレーニングすることで,少しでもラグビー場に慣れ,ラグビーを楽しむくらいにはなれるはずです.サーキュラー型とリニア型が交わったとき,それぞれが相手の型を理解して歩み寄れば,おのずと心地よいコミュニケーションができると思います.
当道場が大切にしていること
グローバルコミュニケーション道場では,この「ゴルフ」と「ラグビー」の対比を, Circular(サーキュラー型)対Linear(リニア型)というコミュニケーション様式の違いとして,カリキュラムに含めて考えていくセッションを用意しています.
ルールの違う2つの競技をどう練習して行き来するのかは永遠の課題であると思いますが,繰り返しトレーニングすることで慣れて行くことは可能です.この相手の型にどう合わせていくかという練習法はグローバルコミュニケーション道場のカリキュラム設計思想にも反映されています.
グローバルコミュニケーション道場
代表 深見忠義





