ベルリンでの,ある夏の頼まれごと
外資系グローバル製薬会社に勤めていた頃,半年間,ドイツ・ベルリンに出向する機会がありました.その製薬会社はドイツが本国であるため,ベルリンに出向するということは,グローバルのマネジメントチームに入るということで,同社では非常に名誉あるアサインメントという機会をいただいたことになります.
海外は出張では訪れたことがあるものの,滞在して現地のチームと一緒に働くのは少し勝手が違います.まず朝が早い.人によっては朝7時や8時に出勤して仕事をはじめます.ランチタイムを挟んで15時には帰宅する方がほとんどで,15時以降のオフィスは本当に静かでした.ドイツのオフィスでは,個人がそれぞれ個室を持つのがスタンダードです.私も個室を一ついただき執務を行っておりました.ちなみにドイツでは日曜日に商店が閉まるので,平日の終業後や土曜日に買い物をしておかないと安心して日曜日を迎えられませんでした.そういう意味で早めに仕事を切り上げる習慣は,生活リズムとしてとても理にかなっておりました.
話はグローバルコミュニケーションから脱線しますが,ドイツ人はこのように残業をすることもなく,早めに切り上げて帰り,夏休みは1か月単位で取る.それでいても世界トップクラスの生産性を誇っていることについては,学ぶところが沢山あると思います.
さて話をグローバルチームに戻します.私が所属したグローバルチームは私を入れて総勢6名でした.3名がベルリン,2名がケルン,残り1名がスイスバーゼルに在席していました.私たちベルリン組の3名(ドイツ人,ポーランド人,日本人)はとても気の置けない仲になり,毎日キャンティーンでランチを共にしておりました.
ある時,その同僚が2人とも1週間不在にすることになりました.ポーランド人の同僚はオフィスに観葉植物をいくつも飾っており,申し訳なさそうに彼が不在の間,観葉植物に水をやってほしいと頼まれました.
その中の一つの鉢について,同僚はしつこく水の量を指定しました.よく聞くと,かなりの水を吸収するので,ジョウロ程度ではすぐに枯れてしまうそうで,鉢受け皿いっぱいまで水が浸るくらいまで水をやってくれというのです.
日本人なら,こう言ってしまう
さて,この水をよく吸収する観葉植物の性質を,誰かに説明する場面を想像してみてください.私たち日本人であれば,学校で習う英語に即して,こう表現するかもしれないと思います.
“This houseplant consumes a lot of water” – この観葉植物は大量の水を消費する
“A lot of water is needed for this houseplant” – この観葉植物には大量の水が必要です
文法的には,何も間違っていませんし,むしろ美しい英語表現だと思います.ただ,前者で言えば,houseplantやconsumeという単語がとっさに出てくる人でなければ作れない文章ですし,後者は受動態なので,日本語の語順思想とはかけ離れているため慣れないと作れない文章である可能性が高いです.
同僚の,たった一言
ところが,その同僚は,こう言いました.
“He is a big water drinker” – こいつは大水飲みだ
観葉植物を「彼」と呼び,「大水飲み」と表現したのです.簡単な単語6つで言いたいことを表現したのです.言いたいことを伝えただけでなく,「彼」と呼んだことで,どれだけその鉢植えに愛着があるかや,「大水飲み」と表現したことで,怪物級に水を消費するという背景情報も伝わります.上記の文法的に正しい2つの文章よりも,その場の空気感を過不足なく伝えることに成功しています.
グローバルコミュニケーションの醍醐味
これがグローバルコミュニケーションの醍醐味であると私は考えます.お互いにネイティブでない者同士が,創意工夫で「伝えたいこと」を伝える.まさに,グローバルコミュニケーション力は語学力とイコールでないという証左であると思います.
しかも秀逸であったのは,中学校で習う簡単な単語6つのみでその場の情報を過不足なく伝えていることです.
当道場が大切にしていること
グローバルコミュニケーション道場では,語彙力や文法,発音をトレーニング題材として取り上げてはいません.もちろん語彙力があるに越したことはないので,語彙力の習得は効果的な学習法ですが,日本人は高校までで十分レベルの高い英語教育を受けています.さらに語学力を高めるよりも,既に習ったものを組み合わせたり,使いこなせるようにしたりする方が,グローバルコミュニケーション習得には近道と考えます.
今の手持ちの駒でいかにグローバルコミュニケーションを攻略していくかを体得して欲しいという願いから,グローバルコミュニケーション道場のプログラム開発を行っております.
グローバルコミュニケーション道場
代表 深見忠義





