コラム読了目安: 約6分

削ぎ落とされた本質が伝える力を生む理由(引き算の美学)

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A4一枚のマンスリーレポート

私が外資系製薬企業に勤めていた際,部門長の意向で,その部門に属する全社員にマンスリーレポートの提出を求められていました.英文レター形式で,A4一枚程度ということでした.

総勢20名程度の部門でしたが,全員,毎月何をどう書くか,頭を悩ませていました.のちに知ったことですが,この部門長は別の外資系消費財メーカーから転職してこられた方で,前職で同じような習慣があったようです.さらに,その前職の外資系消費財メーカーでは,基本的にどの決裁文書もA4で1ページ以内というワンページャールールが定められており,その習慣が本質思考や意思決定速度の迅速化に寄与していることは有名な話だそうです.

何を書くかより,何を書かないか

マンスリーなので,1か月分のサマリを書くわけですので,コンテンツは十分集まります.ところが,ファクトを並べるだけでは,まず1ページに収まりません.何を書くか以上に何を書かないかを考える必要がありました.作業としては,

  1. まず絶対に書く必要のある「幹」を書きます.例えば,「A社と交渉し,納期リードタイムの削減(マイナス2日)に成功した」のような報告事項です.5W1Hのうち,「Who」と「What」のようなイメージです.
  2. 次に背景情報を肉付けしていきますが,全て盛り込むと紙面が足りませんので,優先順位をつけて取捨選択していきます.上司がなぜその交渉が発生したのか理解してない場合は「why」を優先的に,あるいは,交渉方法が特殊であった場合は「how」を優先的に, などです.

これが書ければ,報告事項はまとまります.しかしこれだけだと上司から突き返されてしまいます.「それで?(So what?)」と言われて終わりです.自分自身の考察や提案,あるいはサポートの依頼など,自分なりの意見を自分の言葉で書かなければなりません.

書くべきものは何で,何を削ぎ落すのか.本質だけを残すという「引き算」の考え方ができれば,ほぼ8割がたマンスリーレポートは完成です.あとの残り作業は,客観性の担保と全体構成です.

客観性の担保は,誰が読んでも同じ意味になるような保証をすることです.この表現は別の意味に持読めるようなバリエーションが存在しないかをチェックし,例えば「大幅に」など主観的な表現が意図せず含まれていた場合,「xx%」というように数字に置き換えることを行います.

構成面は,自分の主張を最初に持ってきた方がいいのか,最後に持ってきた方がいいのか,あるいは,各報告事項を時系列に古い順に並べた方がいいのか,新しい順に並べた方がいいのか,はたまたインパクト順に並べた方がいいのかなどを考えて,文章を配置していきます.

ここまでくれば,提出可能な状態になります.

3年間,36枚の反復練習

これらのことを試行錯誤しながら,レター形式のレポートを一枚にまとめていく作業を,3年間,毎月続けました.合計で36枚になります.

文章にまとめる作業は,会話と違って時間をかけられるので,熟考ができます.つまり読み返して判断ができます.読み手が何名かいる場合は,それぞれの立場に立って,複数回読み返します.そうするうちに,レポートの型ができて来て,文章の構成にかかる時間が,少しずつ短くなっていきました.そして何より良かったのは,上司が毎回必ずフィードバックをくれたことです.フィードバックを参考にしながら毎回改善作業を行うことができました.

この3年間の文書作成の継続的なトレーニングが,次第に,会話の場での構成力の向上につながっていきました.会話の場合も同じく,枠は決まっています.枠を超えて長々話すと「話の長い人」と認知され疎まれます.会話では枠に収まるように不要な情報は削ぎ落して投げ込まなければなりません.しかも瞬発性が要求されます.背景情報が足りなければ,相手は質問してくれますから,次のターンで追加説明すればいいのです.文書作成という時間をかけてもよい場で,「引き算」の練習をしたことが,結果として会話の構成力の練習にもなったと実感しています.

時差を超えて

この削ぎ落す練習は,のちに別のグローバル企業に転職した際に非常に役に立ちました.そこでは,アメリカ東海岸と日常的に業務を行うことになりましたが,時差が13時間あります.昼夜逆転です.お互いに業務時間のオーバーラップがないということです.メールを一つ送ったら,返ってくるのは翌日以降です.この場合,送る文章に,客観性やコンパクト性がなければなりません.相手が読んで瞬時に意味がわからないと,つまり的を射ない冗長な文章を送ってしまうと,質問に質問が返ってくることになります.メール1往復でさえ,2日かかるのに,何往復もすると,平気で1週間かかってしまい,とても非生産的です.相手が読んで一発で理解できる文章を送ることが,ビジネス上必須のスキルということになります.

当道場が大切にしていること

グローバルコミュニケーション道場では,繰り返し行う基本動作により,体で覚えていくことを重要視しています.「書く」にしろ,「話す」にしろ,繰り返し,繰り返し試行錯誤することで,ご自身の基礎スキルとして定着することを企図しています.

また,グローバルコミュニケーション道場では,チャットツールを用いて,セッション後のフォローアップを行っています.Q&Aはチャットツールを用いて行いますが,「3文以内,2往復以内」ルールを設けています.「質問を3文以内にまとめる」「2往復以内に解決する」というルールです.削ぎ落したリーンな文章(本質)で,最小限のキャッチボールで解決できるスキルを身につけ,どの時差の人々とも快適にコミュニケーションできるようなトレーニング設計を行っています.

グローバルコミュニケーション道場
代表 深見忠義

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